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山形地方裁判所 昭和28年(ワ)204号 判決 1958年10月13日

原告 国

訴訟代理人 堀内恒雄 外五名

被告 溝越栄治郎 外一名

主文

別紙図面表示の山林(山形県北村山郡尾花沢町大字寺内字大又所在、三町三反七畝十歩)は原告の所有であることを確認する。

被告等は、原告に対し、連帯して金十一万四千七百円およびこれに対する昭和二十八年七月一日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、

別紙図面表示の土地(以下本件土地と称する。)は、もと松前藩の藩有地であつたが、明治維新の藩籍奉還によつて原告所有となり、明治十四年作成の官有地台帳には、本件土地を含む地域が「字大又六十九番柴山九十九町一反九畝歩」と登載され、明治三十九年六月八日右地域につき旧国有林野法(明治三十二年法律第八十五号)に基いて境界査定処分がなされ、隣接民有の所有者から何等の異議がなく、出訴期間を徒過し、明治四十年八月三日国有林なることが確定し、今日に至つている。しかるに最近に至り被告等は本件土地が同人等共有の山形県尾花沢町大字寺内字大又五百四十五番の八山林一町五反四畝十八歩であると称して、原告の所有権を否認するばかりか、共謀のうえ擅に同地に生立する杉立五十九本(七十八石)、姫小松一本(三石)を昭和二十七年三月頃訴外溝越敏雄に雑立木一万一千本(三百五十二石)を同年六月頃訴外西尾栄に、いずれも被告等の所有と称してそれぞれ譲渡し、伐採せしめ、原告をして前記杉五十九本七十八石の価額金七万三千九百四十四円(石当り九百四十八円)、姫小松一本三石の価額金二千三百八十八円(石当り七百九十六円)雑木一万一千本三百五十二石の価額金三万八千三百六十八円(石当り百九円)に相当する合計金十一万四千七百円の損害を与えた。

よつて原告は本件土地の所有権の確認を求めるとともに、前記被告等の共同不法行為による損害金およびこれに対する不法行為の終了した後である昭和二十八年七月一日より完済に至るまで民法所定の遅延損害金の支払を求めるため本訴に及ぶと陳述し、

被告等の時効取得の抗弁は否認する。本件土地は原告が終始占有し同地につき所轄営林局において経営案を作成し、所轄担当区において管理してきたところである。

仮りに、被告等の主張するように字切図によれば本件土地が尾花沢町大字寺内字大又五百四十五番の八山林一町五反四畝十八歩に該当するとしても、前記境界査定処分の結果、右山林は境界査定図の位置に確定し、本件土地に該当しないものとなつた。そして右査定処分には被告等主張のような瑕疵はない。

被告等主張事実中、尾花沢町大字寺内字大又五百四十五番の八が被告等の共有となつた経緯は認める、と述べ、

被告等訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、

答弁として、原告主張の査定処分が実施されたこと、被告等が本件土地に生立する立木を、原告主張の訴外人等に譲渡伐採させたことは認めるが、伐採立木の数量は争う。その余の原告主張事実は否認する。

本件土地は、原告の所有に非ず、被告等共有の尾花沢町大字寺内字大又五百四十五番の八、山林一町五反四畝十八歩に該当する。本件土地は、もと「朴ノ木平」と称する寺内部落の所有であつたが、明治四十四年十一月二十八日被告溝越栄治郎、訴外高橋菅治の両名が、右土地の管理人であつた福原村長奥山英太郎より買受け、所有権移転の登記の経由その引渡を受け、昭和七年九月十四日右菅治の持分が耕地整理組合費の滞納処分による公売に付され、同人の妻被告高橋ミツノにおいてこれを買受け、同年十月六日持分移転の登記を経、爾来被告等の共有するところとなつたものである。原告の請求には理由がない。

抗弁として、原告は境界査定処分の結果、本件土地は国有であることが確定し、被告等の五百四十五番の八の民有地は字切図の位置から境界査定図の位置に変更されたと主張するけれども、右境界査定処分は無効であり、従つて本件土地は依然として被告等共有の五百四十五番の八である。即ち、右査定処分に従えば、被告等共有の五百四十五番の八は従来の位置より約二百間西南方の地形急峻な土質劣弱な場所に移動し、その面積も一町五反四畝十八歩から五反歩と約三分の一に減ぜられることとなる。しかも一方国はその後も被告等に対して従来の広い面積に応ずる公祖公課を賦課している。かかる被告等の財産権をいちぢるしく侵害する右査定処分は明らかに旧憲法第二十七条、新憲法第二十九条に違反し無効である。そして境界査定図は現地に臨み抗打して査定したところの被告等主張の五百四十五番の八本件土地と符合せず、後に机上で作成されたものであるから、原告主張のように五百四十五番の八が査定図通り確定するものではない。

仮りに、前記査定処分が有効で、本件土地が原告所有に帰したとしても、被告溝越および被告高橋の前主高橋菅治両名が、明治四十四年十一月二十八日寺内部落より買受け、その引渡をうけて占有を始めてから、いずれも自己の所有と信じて、同地に杉苗を植栽し、また雑木を他売するなど、使用収益し、公祖公課を負担してきたものであり、その占有の始善意にして且つ過失はないから大正十年十一月二十七日をもつて十年の、仮りに占有の始悪意又は過失ありとするも昭和六年十一月二十七日をもつて二十年の各取得時効が完成し、同人等の所有に帰し、その後前叙のように被告高橋が右菅治の共有持分を譲受け、ここに本件土地は被告等の共有となつたものであるから、原告の請求は失当であると陳述し、

立証<省略>

理由

一、本件土地は、原告が山形県北村山郡尾花沢大字寺内字大又六十九番国有林の一部であると主張するに対し、被告等は、同人等共有の字大又五百四十五番の八山林一町五反四畝十八歩であると争うので案ずるに、

その方式、趣旨により公文書として真正に成立したものと認める甲第一号証(地籍簿)、甲第二号証(官有地台帳)甲第三号証の一、二(要存置国有林野地籍台帳同附属図)および成立に争のない甲第四号証の一乃至五(境界査定関係書類同号証の三は境界査定図)に検証(昭和三十一年六月二十九日、昭和三十二年十一月一、二日施行)の結果、鑑定人佐藤慶太郎、山川五朗、青木恭太郎の各鑑定結果、証人斎藤秋一の証言を綜合すれば、

(一)  本件土地を含む地域につき明治三十九年六月八日旧国有林野法明治三十二年法律第八十五号)に則つて、境界査定処分が行われ、当時の隣接民有地、字大又五百四十五番の八の所有者寺内部落の管理人元福原村長大月衡が査定立会の通知書を受領し、右処分に何等の異議をとどめず、右処分は法定出訴期間の徒過により明治四十年八月三日国有林(大又六十九番)であることが確定した。

(二)  そして、右査定処分の結果、前記五百四十五番の八は本件土地から西南方百三十六間の位置へ移動し、面積は実測三反八畝十六歩となつた。

(三)  しかしながら、右査定処分の結果、隣接私有地である右五百四十五番の八は、その面積位置に重大な変更があつたのに、私有地の台帳である不動産登記簿およびその附属公図は、その後今日まで何等訂正されるところがなかつた。(かかる場合は不動産登記簿を訂正せねばならない法的措置がなかつた。)

ことをそれぞれ認めることができる。従つて、境界査定の結果本件土地は原告所有となつたことは明らかである。

二、しかるところ、被告等は前記査定処分は無効であると主張するので案ずるに、

(一)  前顕甲第四号証の一乃至五(境界査定関係書類)によれば、右査定処分は手続上何等の暇疵が存せず、旧国有林野法に基いて適式に行われたことを認むるに足り、また被告等が主張するように境界査定図が、当初現地において査定したところ(本件土地が五百四十五番の八であると査定された)と全く相違して、後に経つて机上で作成されたものであることを認めるに足りる証拠はない。この点につき右主張に沿うかの如き証人高橋菅治(一、二、三回)被告溝越本人の各供述は措信できない。

(二)  被告等は右査定処分は個人の財産権を侵害するものであるから憲法に照し無効であると主張するけども、前叙のように、右査定処分は旧国有林野法の規定に従つてなされたものであるから、民有地の面積が約三分の一に減ぜられる結果を招いた(前顕各検証、鑑定の結果によつて認められる)としても他に特別の事情につき立証のない限り、憲法に保障する財産権を侵害するものということはできない。従つて右査定処分は無効ではない。

三、次に、時効取得の抗弁につき案ずるに、前顕甲第二号証、甲第三号証の一、二、証人斎藤秋一の証言によれば、本件土地は官有林野実況調査内規(明治二十三年四月)により、明治四十三年、要存置国有林野とされ、爾来行政財産となつていることを認めることができよつて本件土地は、仮りに被告等が明治四十四年以来所有の意思をもつて占有を継続してきたとしても、公用廃止がない限り、(不要存置国有林野とされていない限り、)原則として私権設定の対象となり得ず、民法上取得時効の適用の余地はないと解するのが相当である。被告等の右抗弁に理由がない。

四、前叙のように本件土地は原告の所有であり、被告等が本件土地に生立する立木を(樹種本数には争がある)原告主張のように他に譲渡伐採せしめたことは当事者間に争いがない。そして、成立に争のない甲第九号証、甲第十一、十二号証によれば、被告等は、伐採前営林官庁より本件土地が国有であることを知らされ、被告等の共有なることにつき疑問をいだいていたにも拘らず、敢て伐採に着手したことを認めることができる。従つて被告等は少くとも過失により原告の立木所有権を侵害したものというべきである。

成立に争のない甲第十号証、鑑定人伊藤吉治の鑑定結果、検証の結果(昭和二十九年十月二十二日施行)証人木葉武二郎の証言(第二回)を綜合すれば、被告等伐採の立木の樹種、本数、石数、その価格はすべて原告主張通りこれを認めることができる。

そうであれば、右伐採立木の価格に当る金十一万四千七百円およびこれに対する不法行為の終了した昭和二十八年七月一日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める原告の請求には理由がある。

よつて、原告の請求はすべて理由があるから、これを認容し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 西口権四郎 田倉整 丸山喜左エ門)

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